米国の経済軟着陸と長期金利の低下

   米国の経済軟着陸と長期金利の低下

 

20226月に前年同月比で上昇率9.1%に達したCPIは、202312月時点で3.4%に減速し ました。失業率は3.9%と歴史的低水準を維持しています。大幅な失業率の上昇を避けつつ

インフレ率が低下していることから、米経済は軟着陸に成功していると考えられていま す。

その主な要因は以下の通りです。

  • 移民の減少や女性の労働市場参加率の低下による人手不足の改善が活発な経済活動 を促し、インフレ圧力の緩和に寄与しています。

  • 家賃と賃金の上昇率がコロナ禍の水準に等しいか、それ以下になっています。

  • 11月には、下院議長マイク・ジョンソンが共和党民主党の妥協点を見つけ、つなぎ予算を成立させ政府閉鎖を回避しました。

  •  中国の需給ギャップ拡大は米国への『デフレ輸出』を通じて米国のインフレを弱める役目を果たすことになる。 これらの要因が、米国のインフレ率低下を支えています。

この状況を踏まえると、2024年の米長期金利は、現在の4.25%から3.5%程度に低下する と予想されます。

 

長期金利とは、政府が発行する債券などの長期投資に対する利息率のことで、経済全体に 大きな影響を及ぼします。米国の長期金利が低下すると、債券の価格が上昇し、株式市場 への投資がより魅力的になります。特に、成長が見込まれるグロース株は、低金利環境で 大きな恩恵を受けることが期待されます。これは、低金利が企業の借入コストを下げ、利 益拡大に繋がるためです。したがって、日本の半導体関連企業やITシステム企業などのグ ロース株は、米国の長期金利の低下から直接的な影響を受ける対象の例です。

 

1

米国経済の動向は世界経済に大きな影響を持つため、米国の金利低下は、これらの企業の 資金調達コストの低下や投資意欲の向上につながり、株価上昇の可能性を高めると考えら れています。この予想が正確であれば、米国の金利低下は投資家にとってプラスの影響を もたらし、特に技術革新に焦点を当てた産業の成長に対する投資機会を増やすことになる でしょう。

 

実際に、2024年2月16日現在、日経平均株価は史上最高値にわずか50円まで迫るほど強 気に推移しています。これは、上述のシナリオを見越して投資家たちが積極的に株式市場 に投資していることを示しているかのようです。

ただし、忘れてはならないのが「インフレの一時的な落ち着き」に関する前回のレポート で触れられた要因もまた重要であるという点です。

それらを改めて確認しましょう。

米国では1960年から1980年の間に高インフレが発生し、物価の上昇が一度落ち着いた 後に再び加速しました。この期間中、多くの先進国で経済が高度成長を遂げた一方で、イ ンフレは大きな問題となりました。特に1970年代は、「スタグフレーション」と呼ばれ る、停滞する経済成長と高インフレが同時に発生する状況が見られました。そして、1977 年からインフレが再び加速し始め、1979年の第二次オイルショックを経て、1980年には インフレ率が約13.5%まで上昇しました。この期間にインフレが再加速した要因として は、以下のような点が挙げられます:

 

1973年の第一次オイルショック1979年の第二次オイルショックは、原油価格の急騰に より世界経済に大きな衝撃を与えました。これにより、石油を含むエネルギー価格が高騰 し、インフレ率が上昇しました。

 

高度経済成長期には、消費者需要や政府の支出が増大し、供給能力を超える需要が発生しました。この需要の増大が価格上昇を引き起こし、インフレを加速させたと考えられてい ます。

労働市場の需給のひっ迫により、賃金が上昇し、それが製品価格へ転嫁される形でインフレを引き起こしました。特に、労働組合の強い交渉力が賃金上昇を推進し、インフレを加速させる要因となりました。

 

2

中央銀行がインフレ対策として金利を引き上げるのに遅れたり、適切なタイミングで緊縮 政策を採用しなかったことも、インフレ再加速の一因とされています。適切な時期に金融 政策を引き締められなかった結果、インフレが長引く原因となりました。

 

歴史は繰り返すとよく言われますが、この点においても例外ではないでしょう。 ウォーレン・バフェットは「他人が欲張っている時に恐れ、他人が恐れている時に欲張

れ」という意味の「Be fearful when others are greedy and greedy when others are fearful」という言葉をよく引用します。

 

この格言は、市場の感情に流されず、逆張りの投資戦略を取ることの重要性を示していま す。つまり、市場が楽観的で価格が高騰している時には慎重になり、他の投資家が恐怖に よって売り急いでいる時には、価値のある投資機会を探すべきだという考え方です。

 

このアプローチは、過剰な市場の感情に左右されずに、冷静な判断で投資を行うことの重 要性を強調しています。

 

私たちも、日経平均株価が史上最高値に接近しているこの時に、浮足立つことなく慎重に 相場を見極める必要があります。