「インフレが一時的に落ち着く」とは

 

「インフレが一時的に落ち着く」とは

 

 

まず、次の事実を改めて確認しましょう。

2022年6月に前年同月比で上昇率9.1%に達したCPIは、2023年12月時点で3.4%に減速しました。

これは、FRBが1980年以降で最速の利上げを推進した結果です。それにもかかわらず、景気は減速せず、株式市場は堅調なばかりか、最高値を更新し続けています。財務長官のイエレンは、CNNのインタビューで「ソフトランディングを達成した」とまで述べています。

ここまでくれば、「インフレ圧力はまだある」と警戒するのは、自分の論説が正しいはずだと頑固に信じる学者だけが、事態が自分の考えに沿わないことに不満をもらすように感じられます。

しかし、本当にそうでしょうか?

米国で1960年から1980年の間に高インフレが発生し、物価の上昇が一度落ち着いた後に再び加速したことをご存知でしょうか?実際にこれは起こった事象です。この期間中、多くの先進国で経済が高度成長を遂げた一方で、インフレは大きな問題となりました。特に1970年代は、「スタグフレーション」と呼ばれる、停滞する経済成長と高インフレが同時に発生する状況が見られました。

インフレが再加速した背景には次のような主因がありました。

 

. オイルショック1973年に第一次オイルショック1979年に第二次オイルショックが発生し、原油価格の急騰が世界経済に大きな衝撃を与えました。これにより、石油をはじめとするエネルギー価格が高騰し、インフレ率が上昇しました。

. 需要の増大:高度経済成長期には、消費者需要や政府の支出が増大し、供給能力を超える需要が発生しました。この需要の増大が価格上昇を引き起こし、インフレを加速させたと考えられています。

. 賃金プッシュインフレ:労働市場 tightness(需給のひっ迫)により、賃金が上昇し、それが製品価格へ転嫁される形でインフレを引き起こした。特に、労働組合の強い交渉力が賃金上昇を推進し、インフレを加速させる要因となりました。

. 金融政策の遅れ:中央銀行がインフレ対策として金利を引き上げることに遅れたり、適切なタイミングで緊縮政策を採用しなかったことも、インフレ再加速の一因とされています。適切な時期に金融政策を引き締めることができなかった結果、インフレが長引く原因となりました。

 

1970年代のインフレ率の変動を具体的なタイムスパンで説明するには、国や地域によって状況が異なりますが、特にアメリカ合衆国の状況を例に取ると、以下のような流れが見られました。

. 初期のインフレ上昇期:1970年代初頭、特に1973年の第一次オイルショックにより、インフレ率は急速に上昇し始めました。この時期、インフレ率は年間約5.8%から1974年には約11.0%まで上昇しました。

. 一時的な落ち着き:1974年から1976年にかけて、インフレ率は一時的に落ち着き、1976年には約5.7%まで下がりました。この時期のインフレの減速は、経済の冷却と一部の金融政策によるものでしたが、完全にインフレを抑制するには至りませんでした。

. 再加速期:1977年から再びインフレが加速し始め、1979年の第二次オイルショックを経て、1980年にはインフレ率が約13.5%まで上昇しました。この期間の再加速は、原油価格の再度の急騰、経済活動の回復、および持続的な需給ギャップによるものでした。

簡単にまとめると次の通りです。

初期の上昇期:約1-2年(1973年から1974年)

一時的な落ち着き:約2年(1974年から1976年)

再加速期:約3-4年(1977年から1980年)

 

問題は、この一時的な落ち着きなのが今現在(2024年春)なのか否かってところだと思います。

 

仮に、2021年からインフレが開始されたと仮定し、1970年代のインフレのタイムスパンに照らし合わせて考察すると、以下のような進行が想像されます。

. 初期のインフレ上昇期(2021年~2022年~2023年):

• 2021年からインフレが開始され、初期の12年間で急速にインフレ率が上昇する。この期間は、COVID-19パンデミックの影響からの経済回復、供給網の混乱、エネルギー価格の上昇などが影響していると考えられる。

. 一時的な落ち着き(2023年~2025年):

インフレ率が一時的に安定または減少し始める。中央銀行による金融政策の引き締め、例えば利上げや量的緩和の縮小などが効果を発揮し始める時期。しかし、この落ち着きは一時的で、完全なインフレ抑制には至らないかもしれない。

. 再加速期(2025年~2027年~2028年):

一時的な落ち着きの後、再びインフレが加速する可能性がある。これは、再度の供給網の問題、エネルギー価格の上昇、または経済政策の遅れなどによるものかもしれない。特に、経済活動の完全な回復や市場の過熱がインフレを再び押し上げる要因となる。

 

仮に現在が一時的な落ち着き時期だった場合、市場動向は次のように考えらます。

一時的な落ち着き時期の市場動向

一時的な落ち着きの時期には、インフレ率が安定または減少し始め、中央銀行が金融政策を引き締めることが多いです。この時期、市場参加者は経済の過熱が抑制され、インフレがコントロール下にあると解釈する可能性があります。

このような環境では、利上げによる金融市場への直接的な影響が見られる一方で、経済成長の見通しの改善やインフレ抑制による安心感から株式市場はポジティブに反応することがあります。特に、インフレ抑制は利益率の圧迫を防ぐため、企業業績へのポジティブな影響が期待されるためです。

 

本日のまとめ

インフレ抑制に対する政府機関の安心感と自信、そしてインフレが抑制されているという市場関係者からの安心感と株式市場に対するポジティブな見方が広がっているかもしれません。株式市場では、楽観的な雰囲気の中では悪いニュースが過小評価されがちです。例えば、最近発生したダイハツトヨタ自動車のスキャンダルに対する投資家の反応は、トヨタブランドへの損傷を恐れても、たった数日程度で収まったことがありました。これは、現在の市場環境がどれほど楽観的に見られているかの一例です。繰り返しますが、インフレ抑制による安心感が楽観的な市場を形成している可能性があるということです。忘れてはならないのは、1970年代に見られた高インフレ率が11%であり、一時的な落ち着きの後、1980年にはインフレ率が13%まで上昇したという事実です。